映画・小説の感想棚

映画、小説、アニメなどの感想。作品によって文章量はまちまち。土日正午を中心とした不定期更新。

人間失格

太宰治

主人公・大庭の
ネガティブな一生。

意外と読みやすい。
みんな、

「あんなもん見たらあかん!!
ネガティブになってまう!!」

って言うけど、
元々ネガティブでできてる
私にとったら、
共感できるところが
多かった。

これを読んで、
気分が悪くなる人ももちろん
いると思うけど、
私は楽しめた。


【再読】
人の心がわからない、と人間を恐怖するゆえ、
道化で周りの人を笑わせて
本当の自分を見せない大庭。
人に、恐怖する一方、どこか人を見下していた。
大学生に知り合った、
賢くて遊びなれている堀木をも恐怖し、
見下していた。
そして行く当てがなくなった大庭は
情けなくも堀木の家に行くしかなく、
堀木の老母に、簡素なお汁粉を出され、
堀木はおいしくありがたく
そのお汁粉をすすっていた。

『あのお汁粉と、それから、
 そのお汁粉を喜ぶ堀木によって、
 自分は、都会人のつましい本性、また、
 内と外をちゃんと区別して営んでいる
 東京の人の家庭の実体を見せつけられ、
 内も外も変りなく、ただのべつ幕無しに
 人間の生活から逃げ廻ってばかりいる
 薄バカの自分一人だけ完全に取残され、
 堀木にさえ見捨てられたような気配に、
 狼狽し、お汁粉の禿げた塗箸を扱いながら、
 たまらなくわびしい思いをしたということを、
 記しておきたいだけなのです。』

堀木は自分を
恥じることも隠すこともしていないが、
田舎でお坊ちゃんとして暮らしてきた大庭は、
常に自分を隠してうそをつきその行動に恥じて、
だからまた自分を隠し、
ということを繰り返してきた。

終盤、頭ではだめだと思っていても
薬屋の女性と体の関係を結んでまででも
薬を求めていた。
また薬屋に行き、大庭とお店の女性と、
見つめあっただけで涙するシーンは、
何とも言えない気持ちになる。
女性も大庭もこんなことやめたいけど
もう取り返しのつかないところまで来てるのは
わかってるし、でもどうにも抜け出せなくて、
ただ薬を売って買ってしまう…。

最後のシーン、
精神病院から出てきて
田舎の古屋で年老いた女中と暮らし、
その女中に犯される大庭…、
老婆に犯される成人男性とか、
たぶんそれほど抵抗する体力も意欲も
なくなってるんやろうか…。
その時点でぞっとするんやけど、
最後の一文。

『自分は今年、二十七になります。
 白髪がめっきり増えたので、
 大抵の人から、四十以上にみられます。』

ここまで廃人になったきっかけは、
女にモテまくる容姿があったからであったのに、
最終、27歳にして、
白髪まみれの見た目
40歳以上のおっさんに…。
もう世間とのつながりも、大庭の希望も、
その一文ですべて幕を閉じた気がした…。

何かかわいそうやったな。
でも自殺をする人の人生って
こういうものなのかな、と思う。
結果大庭の独特な思想のせいで
勝手に転落して
かわいそうな環境になっただけで、
裕福な家庭と道化の才能と絵の才能と、
大庭が持ってるものを書き起こしたら、
普通に恵まれてるし。
あ、でも幼少のころから
女中に犯されてるのか…。
そっから、世間を見る目が変わったのかな。
もっと、たとえ同じ出来事が起こる人生でも、
大庭じゃない人の目で見たら
どこか違う人生になると思うんやけどな。
関係ないけど、歌手の高橋優さんも、
自身の作品、「CANDY」のような
壮絶な体験してても、
強い心を持っていたから、
成功した今がある…。
なんだか、
どうにもならなかったんやろうか、
という感じがした。