映画・小説の感想棚

映画、小説、アニメなどの感想。作品によって文章量はまちまち。土日正午を中心とした不定期更新。

新釈 走れメロス 他四篇

山月記」、「藪の中」、「走れメロス」、
桜の森の満開の下」、「百物語」…、
名作を森見登美彦氏が、
現代風(京都の腐れ大学生)に置き換える。

山月記」と「桜の森の満開の下」の
主人公のテンプレではない悩みを
丁寧に深々書いていてすごく切なかった。
桜の森の満開の下」の主人公、
そのあとどうなったんやろうな…!!

【ネタバレ・考察】

この小説の登場人物はのちに発売された、
「四畳半王国見聞録」と
つながってることが判明。

走れメロス」に出てくる主人公芽野は、
「四畳半王国見聞録」では、
マンドリン辻説法に影響され
鞍馬まで修行に行って遭難した男。

同じく「走れメロス」の
セリヌンティウスの位置である芹名は、
「四畳半王国見聞録」で芽野と同じく
詭弁論部に所属するクール眼鏡だった。
芹名は「四畳半王国見聞録」では、
その小説でさんざん話題になった
『四畳半統括委員会』のトップである、
ということをサラッと芽野に告白している。
芹名も頭は賢いが根というか
ハートの部分ではバカなので、
そういう訳の分からないことをしそうだけど、
サラッと言ってるので、冗談ともいえる…。
芹名曰く、「作ったといっても名だけで
悪い噂だけが広まり
実際そういう組織はない」と…。

そして「走れメロス」の王様役である
太った長官は、森見作品によく出てくる
大学内の組織『図書館警察』の
トップであることがわかった。
『図書館警察』とは、

『学生によって運営される
 学内自治機関の一つであり、
 付属図書館で借りた図書を返却しない
 人間から、手段を問わずに強制的に
 回収することを主たる任務とする。
 現在では当初の目的を逸脱し、
 延滞の有無にかかわらず
 私的に制裁を加えたり、
 収集した個人情報を悪用して
 学内の人間関係を悪化させるなど、
 悪辣な行為で恐れられている。』

という組織。(「四畳半王国見聞録」より)
またこの『図書館警察』には、
四畳半神話大系」でこれまた
森見作品ではおなじみの
樋口師匠の弟子である小津も在籍しており、
『「四畳半統括委員会」対策委員会議』では、
『図書館警察』の代表として出席していた。

そして今回判明した『図書館警察』の長官、
の好きな女性須磨さんは、
『猫炒飯』というおいしい炒飯を作るんだけど、
『図書館警察』の上部組織にある
『福猫飯店』と何か関係あるのかな…。
樋口師匠が大好きで、
鴨川ふきんに出現する屋台、『猫ラーメン』も、

『猫から出汁を取っているという
 噂の屋台ラーメンであり、
 真偽はともかくとして、
 その味は無類である。』

ということで、何か関係あるのかな、
と思ってしまう。

あと、この小説全体で一番
キャラが濃かったのは「山月記」の
トラとして出てくる斎藤秀太郎という大学生。
孤高を極めて文に没頭し、
極めすぎて頭がおかしくなり、宵山の夜、
「もんどり!もんどり!」と叫びながら
京の夜をかけ、体が浮きあがり、
そのまま如意ケ嶽の天狗になった話。
如意ケ嶽の天狗といえば、
有頂天家族」の天狗
赤玉先生とかち合わないのかな、
と心配になったりするけど、
赤玉先生は現在では引退し
出町商店街付近に住んでるから
もういいのかな、と思ったり。
そしてその斎藤、天狗になる前は、
マージャン杯に顔を出したり、
自分のことを憧れてくる
小説書きの後輩がいたりと、
つながってる人たちがいるので、
ほかの4章にもちょい役として出てくる。
さらに、「四畳半王国見聞録」で
京大の卒業生二人が東京で、

「あの隅にいる男、見覚えない?
 いや、振り返っちゃいけない。用心して」
「いやしらない」
「あの男…… 確か銭湯の裏で」
「気味の悪いことを言うなよ。
 銭湯の裏といえば
 『もんどりダンス』じゃないか。
 そんなことになったら俺たちは終わりだ。」

ということを話していて、
斎藤秀太郎のことなか、と少し思った…。
斎藤が天狗になったことは
1年以上たってやっと
夏目と前島巡査長が知ったところだから、
下界は下界で「もんどり!もんどり!」いこう
行方不明になった斎藤について
別のうわさが広まってるのかな、と思ったり。

そんな考察でした。
つながりが面白い。