映画・小説の感想棚

映画、小説、アニメなどの感想。作品によって文章量はまちまち。土日正午を中心とした不定期更新。

お布団はタイムマシーン

夫婦の脚本家・木皿泉のエッセイと対談。

平成最後に触れた作品は、
木皿泉さんのエッセイ。
やはりいろんなことを思った。
本当に好きだ。
共感できるところも多い。
しかし、根本的に、
木皿泉さん(エッセイを書いている
妻のときこさん)と性格が違う。
ときこさんは、揺るがない核の部分がある。
だから、私のような不安定な人間は、
ファンになるんだろう。

一番それを思ったのが、「コーヒーは恋」という話。
ときこさんは、
脚本の仕事で食べていけなかったとき、
コーヒー豆を売る店でバイトをしていた。
そこに、ホームレス風の女性客が
月に一度やってくる。
が、買うことなく、店長にアイスコーヒーの
パックのことについてしつこく聞くだけ。
しかし、年に一度、彼氏にもらうらしい
千円札を握りしめて買いに来る。
ときこさんはその時、丁寧に接客をしたらしい。
商店街を歩いていたある日、
ときこさんは、その女性が男性と自転車を
二人乗りして走り去るのを見る。

「世にいう幸せの要素が
 皆無のカップルだったからだ。
 この光景を、私以外の人が見たなら、
 ホームレス風の男女が自転車に
 乗っていたとしか見えなかっただろう。
 私はそのことが悔しかった。」

自分をしっかり持っているときこさんだからこそ、
ここまで彼女たちに熱く感情移入できるんだろう。
核を持っているというか。
私なら、コーヒーでの彼女を知ったとしても、
「へぇー、案外幸せそうでよかった。」
くらいだと思う。
「幸せそうでよかった。」って、
どこか上から目線な気がする…。

このエッセイでは繰り返し、
「私は私」「私の幸せは私だけの物」
ということを言っている。
そこが本当にいい。
ときこさんは旦那の務さんの介護をしながら、
執筆活動をしている。
一般的に見れば、「かわいそう」で「大変そう」。
しかしときこさん自身、

「知らないうちに役割は私に励みと
 力を与えてくれていたらしい。」

と、旦那の介護を、
自分にとって必要な物ととらえている。
このエッセイを読んでいると本当つくづく、
「人から見た幸せ」と、「自分が感じる幸せ」
は違う、感じる。
ときこさんは、「自分が感じる幸せ」を、
存分に感じているから、幸せなんだ。
つまり、人に嫉妬をしない。
これは幼少期の過ごし方にも
関係しているけど、正直、うらやましいなぁ、と。

「うらやましいなぁ。」と思うこと自体
ときこさんからしたら、
「何が?」という感じなんだろうな。
先ほどのコーヒー店でのバイトも、
店長に、化粧をしなさいと注意されたため、
周囲に合わせるのが嫌で辞めた…。
それくらい、ときこさんは、かたくな。
強いよなぁ、そういう人は…。
何があっても、大丈夫な気がする。
実際、圧倒的にお金がなくても、
旦那が車いす生活になっても、
大丈夫なんだから…。
大丈夫ではないんかな。
野ブタ。をプロデュース」を書いていた時は
うつ病になっていたというし…。
まぁ結局のところ本人にしかわからないけど、
一ファンからしたら、強くてうらやましい。

うらやましいうらやましい言うてる私ですが、
やはり勇気づけられる部分がいくつもある。
特に、「私は私」というところ。
私は私以外取って代われない。
私も、成り行きに任せたらいいんだろうなぁ。
これから変に期待もせず、絶望もせず。
成り行きに任せて、その都度選択し、
できることをしていけばいいのかな。
別にこの本にそういうことを
書いているわけではないが、そう思った。

私の中でも、「人にどう見られてもいいや。」
という部分はあるので、
それのすごい延長線上に木皿さんがいる感じ。
だから今の考え方を変えずに、
自分の大事にしている部分を
大事にしていきたい。
…また自信なくすと思うが。
人にどう見られてもいいとか思いながら、
「私の考えはあっているのかな?」
と変に空気を読もうとする…。
すごい矛盾してるけど私はそういう人間だ…。

あと、驚いたのが、会社にある、
「調査室」というもの。
そこは会社の中で、
自ら退職してほしい人たちを入れた部署。
なので、仕事などは与えられていない。
ときこさんもOL時代
ここに入れられていたらしい。
縁があって子会社の社長に拾われ、
そこを抜けたらしいが、
そういうところがあるなんて驚いた。
さすがに今はそういう部署ないよね…。
マジで切なすぎる…。
例えば、スーツを着て「行ってきます。」
といって出て会社では何もせず、
「ただいま。」と帰ってくる…。
家庭を持ったおじさんを想像すると、つらい。
…でも、それこそ「コーヒーは恋」で、
案外、「調査室」で次の仕事に向けて
資格の勉強をしたりしてるかもしれない。
その人の幸せは、他人が決める物じゃないな。

というわけで、やっぱり読んでよかった一冊。
PPAPを、人間が生まれる瞬間
って解釈には笑ってしまった。
深読みしすぎてもう何の話か分かれへん。
ペンパイナポーアッポーペン。