映画・小説の感想棚

映画、小説、アニメなどの感想。作品によって文章量はまちまち。土日正午を中心とした不定期更新。

ローワンと白い魔物

春が過ぎようとしてもリンの谷の雪は収まらず、ローワン達5人を残しほかのみんなはマリスの民へ避難する。
ローワン、シャーラン、ノリス、ジールの4人で、寒さの元凶である禁じられた森へ足を踏みいれる。

【ネタバレ】

とてもとてもとても楽しかった…!!
ロス過ぎて辛い。
これから何を楽しみに生きていこう。
やはり、役割を持った人たちが活躍する冒険ものはいい。

ローワンの世界は、季節の在り方が本当にファンタジーで面白いな。
リンの民が使っている川は、山頂にいる竜がはく炎で雪を溶かして、流れている。
冬の寒さは、巨大白蛇(アイス・クリーパー)たちがはく冷気だし、アイス・クリーパーが熱気から守っている巣の外を、草食動物?バクシャーが食べている。
バクシャーが巣の外を食べているため、程よくアイス・クリーパーが死に、春がやってくる。
うまいことまわっている。
もともとリンの民に人間はいなかったしな。
竜とアイス・クリーパーとバクシャーでうまいこと成り立っていた。
しかし、人間が住むようになって家畜になったバクシャーは、冬でも餌をもらえるようになった。
そのため、森に入ってアイス・クリーパーの巣を食べることもなく、どんどんアイス・クリーパーは繁殖し、冬が長くなっていっていた。
…うまいこと考えるわ。

恋愛関係でも気になることがあった。
1巻で、やんわり気にしあっていた様子のアランとマーリーが、4巻(前巻)結婚した。
1巻で、特別覚えているエピソードがあったわけではなかったけど、二人はいい雰囲気だと思いながら読んでいた。
そんな感じで、ジールはローワンを、ノリスはジールを、やんわり気にしているように感じた。

タコで空飛ぶジールはローワン達と禁じられた森の入り口で合流した時、降りてくるなりやたらテンションが高くてローワンの手を握り、

「あたしは、オグデンの話を聞いてすぐに向こうを発ったのよ。あなたと一緒に行くためにね」

と言ったりしていた。
いくらお互い手袋をしているとはいえ、降りてきた早々嬉しそうに手を握って、「あなたと一緒に行くために急いできた。」なんて言うか…?
ローワンと一緒にいれば面白い冒険ができるという意味も込められてるだろうが、これはもうちょっと好きだろ。
ほかにもローワンをいろいろ気遣っていた。
ジールはノリスやシャーランと付き合いが浅いからローワンに対しての絡みが多いのも仕方がないけど。
ローワンが意識を失ったとき体を支えていたのもジールだった。

一方で、血の気が盛んなノリスは、ジールに褒められて顔を赤くしていた。
プライドの高いノリスが顔を赤くするなんてここ以外ではなかった。
そのほかにも、自分はけがをし足手まといだからここで死ぬとシャーランとローワンに怒鳴って不貞腐れたとき。
そのときジールは偵察で空を飛んでいた。
ノリスは迫ってきたアイス・クリーパーから二人を守るために崖の上に押しやる。
ノリスが死にかけたとき、ジールが、空から加勢。
勝機を見つけ出したノリスは、今度はピンチのジールを救って、アイス・クリーパーに勝利する。
そのあとノリスの不貞腐れを知らないジールが、ローワン達の元へいこうとノリスを促すと、優しく微笑みながら言うこと聞いた。
っていう話。
ノリスはもともと戦士としてジールにあこがれを抱いていたしな。
おとなしいタイプが好きではないっぽいし、たくましくてきりっとしている女性に惹かれるのかもしれない。

恋愛っけのない物語の、ささやかな男女のやり取りは、キュンキュンする。
恋愛関係って程大きなものじゃないからいい。
ゆくゆくは、恋愛になっていくのかなと想像するのが楽しみ。
 
このシリーズの最終巻(今作)は2003年出ているが、「最終巻」としては出していない。
翻訳者も「まだ続くのでしょうか。」とあとがきで書いていたくらい。
本当にまだ続いてもおかしくない内容で終わった。

・ゼバック国はだれがどのようにして、人の記憶を消しているのか。
・禁じられた山のアンリンの森側のそのまた奥の山を越えたらどういう景色が広がっているのか。
・〈賢い女〉シバはなぜどのようにして〈賢い女〉に引き継がれたのか。
・シバが死んだり老いていったらローワンが〈賢い男〉になるのか。

いくつも謎がある。
まだ続編できそうだから書いてほしいけど、最終巻が2003年だから絶望絶望絶望。
ないだろうな。

このシリーズをオーストラリアから日本へもってきてくださった翻訳者に本当に感謝。