映画・小説の感想棚

映画、小説、アニメなどの感想。作品によって文章量はまちまち。土日正午を中心とした不定期更新。

恋文の技術

石川県能登の研究所に飛ばされた

京都の大学生の守田は、研究の傍ら、

文通武者修行、として、

京都に残っている友人や先輩や妹たちと、

文通をすることに…!!

マジで笑った。

手紙の語り手の主人公は

めちゃくちゃあほってわけじゃなさそうやのに、

「おっぱい事件」起きた時の、

なんでそうなるん!?ってところが

ほんまに面白かった。

学力がないあほ、とかではなくて、

発想力の無駄使いというか。

やっぱり森見さんのキャラクターは

それぞれ意思を持っているというか、

気持ちが流れるようにっていうか。

とにかく、終盤でタイトルの、

「恋文の技術」に納得するし、

心温まるお話やった。

こんな笑いと温かさを、

手紙の文面だけで伝えてるんやからすごい。

私も文通したくなったな。

【ネタバレ・考察】

今回は、「森見登美彦」という

作者本人がキャラクターとして出てきた。

主人公の守田君から、

大学のクラブのOBの先輩、

森見さんへの、8月22日の手紙。

「新作の御原稿拝受しました。

 早速拝読し、怒り心頭に発しました。

 俺が手紙に書いたあれこれを

 姑息に盗み取り、

 しかも事前に何の断りもない。

 像の尻も、だるまのリンゴも、

 パンツを脱がないパンツ番長も、

 錦鯉を背負った人も、

 全部俺が手紙に書いたことだ。

 表題に『御都合主義者』まで盗んで

 平然としているのだから恐れ入ります。」

これに出てくるワード、全部、

夜は短し歩けよ乙女」…。

めっちゃ笑える。

そのあとの10月5日の、

守田君から森見さんへの手紙には、

「何はともあれ、『夜は短し歩けよ乙女

 完結、おめでとうございます。」

ってやっぱり、

夜は短し歩けよ乙女」やったんや。

そんで結局完成したんや。

6月21日には守田君から森見さんへ、

「縦横無尽に移動する『韋駄天コタツ』」

のことも話しているので、

それもパクられてるな…。

ほんま物語内の仕掛けが面白い。

でも守田君は、ある金曜日の夜、

能登和倉温泉で、

京都から遊びに来た金曜倶楽部

(「有頂天家族」内の組織)の面々と

飲みあっている…!!

世界観どうなってるんや!!

『加賀屋』という高級旅館に

連れて行ってくれた美女、って弁天のことやろ。

金曜倶楽部は京都を出て

能登半島まで遊びに来るねんな。

そしてさらに守田君は、

「四畳半王国見聞録」に登場する、

マンドリン弾きの丹波先輩と知り合いらしい。

その人が何の変哲もないコタツを、

『韋駄天コタツ』と命名し、

縦横無尽に下宿内を移動していた、と。

なんだか今回の話もいろんな世界と

つながってて面白かったな。

樋口師匠もまたそろそろ

顔出してくれてもいいのになー。

【再読】

とても良かった!

主人公守田はへなちょこだけど愛されているな!

現在進行中の片思いと実験、これからの就職活動にもんもんと悩んでる姿がリアルで愛おしい。

何故愛おしいと思えるのかは、森見登美彦氏に宛てて書いた文体からだと思う。

片思いも実験も就活もうまく行かなさ過ぎて、「「手紙代筆ベンチャー企業」を立ち上げる、いややめておいたほうがいいか」と悩むところとか、アホで愛おしい。

頑張ってるんやなと。

この本にキャラクターとして出てきた、森見登美彦氏は、作者だからと浮くこともなく、小説家の一人として自然と出てきた。

守田視点で森見登美彦氏のいい部分も悪い部分も書いているから自然なんやろうなぁ。

読後感も良かった。

森見登美彦さんのアホ系な小説は物語中いつもすっごいゴタゴタが巻き起こるけど、物語の締めはとてつもなく良い。

人とのつながりを感じられて暖かくなる。