映画・小説の感想棚

映画、小説、アニメなどの感想。作品によって文章量はまちまち。土日正午を中心とした不定期更新。

ひとなつの。

大島真寿美瀧羽麻子藤谷治森見登美彦、椰月美智子が描くひと夏の短編物語。

【ネタバレ】

おもしろかった。
三泊四日のサマーツアー」と「真夏の動物園」が好き。

三泊四日のサマーツアー」。
中二の男子は母親が恋人と会いたいがため無理矢理一人で参加させられたサマーツアーに不満を抱いていた。
でも行った先の沖縄のある島ではなんとなく不思議なことが起こり…、という話。

別に大きく話が動くわけでも、その不思議が解明されるわけでも、なかった。
けど主人公目線で語られる、主人公が見聞きしてる以外にも、その島や吉村さんについて本当は何かもっと隠してることがあるんだろうなと思わせるのがこの物語の不気味なところ。
友達との関係性もよかった。
ラストは、中二のわりにあっさりした友達付き合いするんだな、とちょっと寂しかった。

「真夏の動物園」はいろいろ共感。
女子中学校の美術教師をしている30半ばの男は修学旅行で京都に行くことに。
修学旅行といっても教師の自由時間が多く1人で行動していると、同じく1人で行動していたおかっぱの生徒と出くわし…、という話。

最初なんでこの男は物事を冷めた目でみて全体的にやる気がないんだと思っていたけど、過去が語られてなっとく。
男は充実した京都の美大卒業後、いろんな仕事を転々としてきていた。
過重労働、人間関係…、男は鬱寸前まで追い込まれ地元に帰り、親のコネでなんとか美術の非常勤講師になれたのだとか。
そこから男を応援する気持ちになった。
世間や自分に対するあきらめた感覚が私もとてもわかるから、男には今より幸せになってほしいし、考え方も変わってほしいと思うようになった。

一緒に行動している、女子生徒も冷めた感覚の持ち主。
キャラ的に男と似てるけど、男は人生経験がある上での冷めかた。
女子生徒はただ漠然と自分の可能性を信じてるからこその周りを見下した冷めかた。

ラストは予想してたけど劇的になにかが変わるとかではなかった。
でも男も女子生徒も楽しそうでよかった。
男がそのあとどうなったのかとても気になる。

「ささくれ紀行」も「真夏の動物園」とちょっとにてたかな。
二十歳の主人公は、偏差値33で早稲田大学受けて落ちて二浪して精神的に追い詰められたから青春18切符片手に行き先決めず旅にでる、とかパンチききすぎて続き楽しみだったけど、わりと普通だった。
確かに二十歳のわりにアホっぽい行動多かったけど、偏差値33で早稲田受験する以上の面白行動はみられなかったのが残念。

ただ、自分のこと情けなく思ったり、行動にでてみたけどその行動に意味を見いだせなかったりする感覚はとてもわかるな。
だからこの主人公にも幸せになってほしいけど、結局どうなったかわからない。
サラリーマンにはなったっぽいので、一応普通の生活はしてるのかな。
そのあとも描いてほしかった。