
京都の寺町通に探偵事務所を構える名探偵シャーロック・ホームズはスランプに陥っていた。
ホームズの相棒であり医師のワトソンは、スランプから立ち直らせようとあれこれ奮闘するが…。
【ネタばれ】
森見登美彦さんの小説は、登場キャラが面白くて話の伏線回収も見事で、すべて読んでいる。
しかし、時々伏線が回収されず結末に納得がいかない作品がある。
この作品は「京都に住むシャーロック・ホームズとワトソン」という突飛な設定で、世界観から入りづらかった。
登場キャラは全員カタカナ名で移動もタクシーや車ではなく、馬車。
なのに、鴨川や南座など京都で実在する建物などが使われている。
だけど読み進めるうちにキャラが森見作品独特の愛すべき阿保として描かれ行動していくので、面白くなっていった。
「『我々は〈自分自身〉という難事件に取り組んでいるのだよ』
ホームズはパイプをふかしながら言うと、長椅子に腰かけたモリアーティ教授は『いかにもその通り』とうなずいて見せる。『我々は全力を尽くしている。これほど難解ななぞはない。』
もっともらしいことを言っているが、現実から逃げているだけである。
やがて京都警視庁のレストレード警部も通ってくるようになって、寺町通221Bは負け犬たちの吹き溜まりとなった。『ホームズさんのおかげで生きる勇気が湧いてきましたよ』とレストレードは言った。『相変わらず、事件は一つも解決できませんがね』」
どうしようもない人間しかいなくて笑う。
そしてワトソンは、こう記している。
「屋根や煙突が影絵のように広がる京都の街に、しんしんと雪が降っていた。」
「あれ?」と…。
いくら銭湯が多めの京都だけど、影絵のように広がるほど煙突はない。
やっぱり世界観に混乱。
違和感を抱えながらの、異世界設定が…。
正直、冒頭の『結末に納得がいかない作品』っていうのは、「夜行」「熱帯」など異世界が絡んだ作品ばっかり。
「あーこれも外れか…」とがっかりしつつ、突然の伏線回収に「見事!」とうなり、再度ぶっ飛びファンタジー設定で「結局外れか…」と落ちてまたすぐ「見事!」となる。
中盤からの怒涛の展開に、結末が気になってページをめくる手が止まらない。
終盤の異世界でホームズが追っていた宿敵、モリアーティ教授は実はもう一人の自分の人格だった…、という展開にぞくぞくした。
最強の矛と盾というか、そりゃどれだけ追いかけても追いつけないはずだわという。
たった一人で大犯罪組織のトップになり、その一方で自分が企てた罪を暴こうと必死になっていた矛盾。
しかしそれすらも実は…、っていうさらなる展開。
結果的に、辞書並みに分厚い473ページだったけど、とても面白くて夢中で読み切った…!
もちろん、回収されていない伏線もいくつかある。
例えば異世界でのハドソン夫人の行動について。
〈東の東の間〉から入った異世界でワトソンが「自分はホームズの味方」という自我を保ててたのは分かる。
でも〈東の東の間〉に入っていないハドソン夫人もホームズの味方になっていたのはなぜ?
〈東の東の間〉という異世界そのものが意思を持ってるとしたら、わざわざお助けキャラみたいなハドソン夫人を登場させなくてもよかったのでは?みたいな。
まあでもその結末を差し置いてもとても読み応えのある良い小説でした!