京都の英語スクールで一緒の、大橋、中井、
武田、藤村、田辺、長谷川の6人は、
「鞍馬の火祭」に遊びに行ったが、
そこで長谷川が謎の失踪をした。
あれから10年、大橋達5人は、
再び「鞍馬の火祭」に参加するため、宿で、
これまでに起こった不思議な旅の話をしだす。
【ネタバレ】
結局すっきりしない話だったな…。
森見登美彦さんの作品は大ッ好きだけど、
こういう系統は、
よくわからない終わり方が多い気がする…。
イヤーな予感してたら結局…、って感じでした。
…感想書いてから今、ここを書いています。
「夜行」の感想というより、ここに出てくる
柳さんが多めになってしまいました。
そして結末までネタバレしています。
ご了承ください…。
この物語は、5章に分かれています。
まず最初に、プロローグのような、
5人が京都に集まった経緯。
そして、
第一夜、「尾道」…、中井さんの話。
第二夜、「奥飛騨」…、武田君の話。
第三夜、「津軽」…、藤村さんの話。
第四夜、「天竜峡」…、田辺さんの話。
最終夜、「鞍馬」…、四人の話を聞き終わった後、
さぁ鞍馬へ行くか、と腰を上げた5人のその後。
まず、プロローグの大橋君。
10年前は大学2回生ということから、
おそらく今は30歳前後。
大橋はみんなとの集合までに時間があったので、
繁華街をプラプラしていた。
すると、長谷川さんに似た女性を発見し、
あとをつけると、三条高倉下ったところにある、
『柳画廊』に入っていった。
大橋も『柳画廊』に入るが彼女の姿はなく、
画廊の主の柳さんが出てきた。
…この『柳画廊』の柳さん、
別の森見作品「宵山万華鏡」に出てきた
柳さんで間違いないと思う。
「夜行」での柳さんは、
「まだ三十代後半の男性である。」
と。
「宵山万華鏡」では、
「柳さんはまだ三十前ということだが、
洗練された挙措と落ち着いて
柔らかな言葉遣いは、
三条高倉の画廊主という肩書きに
ふさわしかった。」
と、「夜行」より10年前として登場している。
ちなみに私のイメージでは、
穏やかで物静かな眼鏡の男性。
「宵山万華鏡」曰く、それまでの柳さんは
もともと東京の画廊で働いていた。
しかし、お父さんが亡くなったので、
京都の画廊を母と経営している。
お父さんが亡くなったのは、
1年前の『宵山』の日、
なぜか鞍馬で行き倒れていた。
鞍馬に行った理由は、
息子の柳さん自身も全然見当がつかない。
そして、柳さんは、
『宵山』の万華鏡の水晶を
所持していたことから、
同じ『宵山』の日を繰り返すことになる。
父の、鞍馬での死を考える。
「特に鞍馬でなければならぬわけではなく、
父はただ追いかけてくる宵山の幻影から
逃れようとしていたのではないか。
つまり、父も私と同じように宵山を
繰り返していたのではないか。
そしてそこから抜け出す方法を
見つけ出す前に
死んでしまったのではないか。」
真相はわからない。
そのころ柳さんは、
河野画伯の展覧会に向けて、
打ち合わせを重ねていた。
河野画伯の娘は、
15年前の『宵山』の日、失踪している。
あれから10年たって、「夜行」での柳さん。
父から継いだ『柳画廊』で飾っているのは、
すでに亡くなっている岸田道生という男の、
銅版画たち。
岸田道生は、
『夜行』という連作を発表している。
『尾道』『伊勢』『野辺山』『奈良』『会津』
『奥飛騨』『松本』『長崎』『津軽』『天竜峡』…、
全部で48作。
「ビロードのような黒の背景に
白い濃淡だけで描き出された風景は、
永遠に続く夜を思わせた。
いずれの作品にもひとりの女性が
描かれている。目も口もなく、
なめらかな白いマネキンのような顔を
傾けている女性たち。」
『夜行』シリーズの銅版画は、
今回集まった大橋達5人、
それぞれ違う場所で見ている…。
その銅版画にまつわる旅を、
各章で語っている。
しかし、各話みんなそれぞれ闇に飲み込まれ、
どこか現実のない話ばかり。
各章とも、「そんな結末で
よく現実に戻ってこれたな!!」というか…。
だから、全員本当は死んでるんじゃないの?
と思ったけど、そうでもない様子…。
読み進めると、『夜行』とついをなして、
『曙光』という連作を、岸田道生は、
作っていることがわかった。
が、誰も見たことがなかった…。
旅の語りも終わり、
5人で鞍馬の祭りに出かける。
その帰り、大橋はほかの4人とはぐれる。
鞍馬から鴨川デルタまで降りてきた大橋。
中井さんに電話をすると、
すごくビビって切られたので、
ほかのメンバーにも電話をするが
同じような反応。
何とか中井さんとコンタクトがとれ、
バーに呼ばれ、告げられた事実が、
「10年間失踪していたのは君だ。」と。
中井さん曰く、長谷川さんは10年前、
ちゃんと『鞍馬の火祭』から帰ってきている。
しかし大橋にも、
この10年間の人生はちゃんと記憶にもあり、
混乱。
「『奥さんを追いかけて
尾道へ行ったことがありませんか』
中井さんはおびえたような目で私を見た。
『……どうして知っている?』
『今夜、僕らは貴船の宿に集まったんですよ』」
尾道に奥さんを探しに行ったことは
事実のようだが、
あの不気味な体験をしたのかは
明かされなかった。
『夜行』を見れば何かわかるかも、
と、夜も遅かったが、
大橋と中井は『柳画廊』へ向かう。
柳さんが出てくれるが、
昼間大橋と話したことは覚えていない。
画廊に飾っていた『夜行』もすべて変わっており、
『曙光』という連作だった。
「『尾道』『伊勢』『野辺山』『奈良』『会津』
『奥飛騨』『松本』『長崎』『津軽』『天竜峡』…、
一つ一つの作品を見ていくと、
不思議な流れとリズムを感じた。
日本各地の様々な街へ次々と
朝が受け渡されていく。
いずれの朝にもひとりの女性が
たたずんでいる。」
そして大橋はひとつの答えにたどりつく。
「『曙光』と『夜行』は
表裏一体をなす作品なのだ。
かつて私のいた世界から見れば
『夜行』に見えるものが、
こちらの世界では『曙光』に見える。
鞍馬の火祭を見た帰り道で
仲間たちとはぐれた時、
私は『曙光』の世界に迷い込んだに違いない。
こちらの世界に『夜行』は
存在していないのだから、
展示されていないのも当然のことなのである。」
しかし大橋は、こんなバカげた答えは、
二人にいえない。
さらに柳さんは、岸田道生は生きている、
ということをいう。
強引に電話をしてもらい、
出てくれたのは奥さん、
受話器を大橋に代わり、
そこから聞こえてきた声は、長谷川さん。
岸田道生は、10年前に失踪した
長谷川さんと結婚していた…。
そこから、大橋と中井さんは、
岸田道生と長谷川さんの家に行く。
岸田の話を聞き楽しい時を過ごす。
岸田と長谷川さんの出会いは、
尾道だったけども、
10年前の『鞍馬の火祭』で偶然再会し、
そこから発展していったよう。
「あの夜、岸田氏もまた我々と同じように、
暗い山奥の祭りを見物に出かけたのだった。
あの夜祭の情景が
ありありと眼前に見える気がした。
火の子を散らす松明の明かりは、
長谷川さんの頬を赤く染めていた。
岸田氏が長谷川さんを見つけ出した夜は、
私たちが長谷川さんを見失った夜でもある。
それは『曙光』が始まった夜でもあり、
また『夜行』が始まった夜でもある。」
大橋の、「表裏一体の世界」説が正しければ、
その境界線は、岸田道生。
岸田が長谷川さんに惚れたばっかりに、
長谷川さんを、『夜行』の表世界から、
『曙光』の裏世界へ連れてきた、と。
だから、『夜行』表世界では、
長谷川さんは失踪。
しかし、岸田道生が『夜行』世界で
死んでいるのはなんでなんだろ。
『夜行』世界では、
岸田のアトリエの暗闇にいた、
女性が、殺したのでは、ということになった。
物理的に殺したというわけではなく、
連れて行った、というか。
その女性が長谷川さんだとしたら…、
自分を『曙光』に連れてきたことを、
存在しない『夜行』の世界で恨んでいたとか?
そして、気づけば、岸田道生の家で、
大橋一人だけになっていた…。
テーブルに置かれた、
岸田が見せてくれた『曙光―尾道』の
銅版画も、『夜行―尾道』になっている。
外に出ると、夜が明けている。
玄関にごみも捨てられ、
だれも住んでいないかのような、
家になっていた。
大橋は、『夜行』の世界に戻ってきた、
と安どする。
中井さんに電話をする大橋。
「本当に電話が通じるのか不安になったが、
しばらく呼び出し音が続いた後、
心配そうな彼の声が聞こえてきた。
『……大橋君なのか?』」
…その声を聞いて、
大橋はすがすがしい気持ちになって
終わっているが、
これは本当にハッピーエンドなのかな?
最初の、「……」が、
『夜行』の世界でも大橋の存在は、
大橋が思ってるものと違うのではないかと
思えて来る。
結局、『夜行』と、『曙光』の世界、
どちらが現実だったんだろうな。
もしかしたら、
『曙光』の世界が現実かもしれないし、
また違う答えがあるのかもしれない…。
そして、それぞれが語っていた、
不気味な旅の真相もわからずじまい。
わからん。
あと、柳さんのお父さんの鞍馬での死、
岸田道生がかかわってたりして、と思ったり。
柳さんの具体的な年齢が出てないが、
鞍馬で岸田道生が長谷川さんを見つけた年と、
数年前後ではかぶる。
三条高倉に住んでいてわざわざ
鞍馬まで行くなんて交通の便悪いし、
鞍馬でないといけない理由が
あったんじゃないかな、とか。
でも、お父さんは失踪ではなくて死体があるし、
『宵山』の日に亡くなってるので、
関係ないだろうな。
水晶はがもともとお父さんが持っていたもので、
柳さんの言う通り、
「『宵山』から抜け出したくて」説の方が
納得できる。
『柳画廊』と、『鞍馬』がかぶったから、
リンクしてたら面白いなーと考えてみただけ。
…なんにしても『柳画廊』は
気味の悪い作家と仕事しすぎだ。