鳥取に住む高校2年生の聖輔は父を交通事故で亡くし、その3年後に東京の大学に在籍していた時、鳥取に住む母が亡くなる。
20歳にして天涯孤独となった聖輔は金銭面から大学をやめ、アパートの中でカップ麺ばかり食べる生活をしていて…。
【ネタばれ】
読んで良かった…。
最初はつらくて最後まで読めるかわからんかったけど…。
20歳の男の子が天涯孤独、故郷の鳥取が故郷ではなくなり、東京の大学もやめたからマジで一人で生きていかなければならなくなったという重い出だし。
カップ麺生活の中で、ふらふらと訪れた商店街。
そこでコロッケをメインに売る総菜屋さんと出会い、フルタイムのアルバイトとして働くことになった。
職場は人間関係もよく、和気あいあいとしている。
でも聖輔の優しくて人に遠慮気味な性格上、職場の人たちに弱音を吐くことなく、淡々と真面目に仕事をこなしていく。
母の葬式関連を手伝ってくれた唯一の親戚は、母の保険や貯金目当てに東京に来てまで聖輔に金をせびってくる。
それも一度ではない。
だけど聖輔は誰にも相談しなかった。
また、やめた大学の友達の剣もやっかいだった。
剣から久々に連絡がありうれしく思う聖輔。
家に呼ぶと、聖輔がバイトで家を空けている間自分が授業の合間に寝に来たいから鍵を貸してくれないか?と相談してくる。
友達を信じて合鍵を渡すと、実際は女を連れ込んでラブホ代わりに部屋を使っていた…。
聖輔は孤独だけど、アルバイトをしながらいろんな人とかかわっていく。
バイト先の人たち、昔やってたバンド仲間、高校の時のクラスメイトの女子、とその元カレ、死んだ父が働いていた職場の人たち。
中にはどうしようもないくそ人間もいるけど、優しい人間もいる。
聖輔の状況を知って、特に年配の人たちはあれやこれやと本気で心配し頼ってほしいという。
聖輔はとても優しく純粋なので、その善意を嬉しく思いお礼を言うが、真面目な性格上決してその人たちには頼らない。
…私は、聖輔がどこまでも優しくてしっかり者だからこの小説を最後まで読めた気がする。
例えば、お金をせびってくる親戚とか、剣とかの登場で、やむような主人公や怒り狂うような主人公なら読めてなかった気がする。
私がそのタイプだから。
でも聖輔はどんな状況が起こっても、ジンワリと受け入れてる感じ。
もちろん母が亡くなれば号泣するし、常に不安も悲しみも抱えてるから、負の感情がないわけではない。
だけど、聖輔はどん底の中でも、大学をやめてからこれからどうやって生きていこうかと一人で考えて調べて、ゆっくりだけど行動に移せる人間。
聖輔という人間が、どんな状況でも生きていける強さがあるとわかったから、親戚のことも剣のことも読んでてダメージが少なくて済んだ。
本当によくこんな人たちと絡んで人間不信にならんかったわ。
あといざというとき周りの人が助けてくれるだろという安心感もあったしな。
聖輔が頼らなかっただけで。
総菜屋の店主が一番頼りになるし情に厚くていい人だった。
私のビジュアルのイメージは堤真一さん。
時代に反してるかもしれないけど、まず下の名前+呼び捨てなのが、愛情あってよい。
そして最後、主人公が決断した選択に、
「俺達には頼れ。」
と声をかけるの本当に男前。
そのあと聖輔が母が亡くなった時以来泣くけど、この涙はたぶん、人の善意をしっかり受け入れた結果、だと思う。
母が死んで初めて、あぁ俺は頼っていいんだ…、って思ったんじゃないかな。
周りの大人たちははじめからそんな人多かったけど聖輔自身が受け入れてなかったし…。
この「ひと」という小説には続編の「まち」があり、「まち」のあらすじの1行目に感動した。
「ひとがつながり、まちができる。」
タイトルのひとってそういう意味だったのか…。
この小説読んで感じた、つながってたよ、ちゃんと…。