酒好きな伯母の秘密を探る姪っ子、自宅での果実酒づくりにはまるキャリアウーマン、実家の酒蔵を継ぐことに悩む一人娘、酒が原因で夫に出ていかれた妻、保育園のオンライン飲み会に呼ばれたバーテンダー…。
お酒にまつわる人間ドラマを描いた心うるわす5編の短編小説集。
【ネタばれ】
どれも面白かった!
表紙もタイトルも柔らかくてかわいいけど、各短編のタイトルもかわいかった。
・ショコラと秘密は彼女に香る
・初恋ソーダ
・醸造学科の宇一くん
・定食屋「雑」
・barきりんぐみ
雰囲気おしゃれで空気感がよかったのは「ショコラと秘密は彼女に香る」かな。
お嬢様系のひなきはあこがれのかっこいい伯母が昔からの好きな人である人の神戸の家へ訪れる。
出てきたのは上品な愛想のいいおばあさんで、おばあさんはひなきを手厚くもてなしてくれる…。
おばあさんとひなきの品のあるやり取り、そこから生まれる空気感がとてもよかった。
描写が良いからか、おばあさん宅の家具や出してくれたお菓子までしっかり想像できて、私もそこの空間に浸れた。
洋酒入りのお菓子、いいな!
おばあさんの孫の和人もイケメン紳士で、この話には汚いものが何もなくて素敵だった…!
一番考えさせられたのが、「定食屋『雑』」。
完璧主義気味なさやかは、酒はご飯と一緒に飲むものではなく、食後におつまみと一緒にたしなむものと考えている。
だから旦那がご飯と一緒に飲むことが許せず、旦那はだんだん外で食べるようになり、その価値観自体さやかには理解できず、2人の溝は深くなり、結局旦那から離婚届を渡される…。
一方的に同居になったことに納得がいかないさやかは旦那が通っていた『雑』にバイトすることにした。
…人間関係って難しいな。
これは男女の話だけど、なんかいろんな人間関係に通ずる話だと思った。
庶民感覚の私は旦那の価値観に肩持ってしまうけど、私もどこかでさやかみたいな、偏った価値観を持っていて、「自分は正しい」と思ってるかもしれない。
そしてそれは違うと言われたときに、「じゃあこうすればいい!」と相手が求めていない答えを出して、相手をイラつかせてるかもしれない…。
さやかは『雑』で働くようになって、ご飯を食べながら酒を飲むのもいいかもしれないと思うようになった。
さやかは拒否する旦那に無理やり会ってもらい、直接話をして頭を下げる。
「…少し、わかってきたような気がする。お店でご飯を食べながら、お酒を飲んでる人を見て。ぞうさんに料理も習ってるし。今なら、あなたのことを許せる。」
旦那はしばらく考えてから、口を開いた。
「許せるか…。」
「うん。」
「…さやかにとって好ましい食べ方や飲み方があるように、俺やほかの奴にだってあるんだよ。どっちが許すとかじゃない。どうして、自分だけが正しいって思えるんだろうな。」
「え。」
「…ごめん。もう、遅い。申し訳ないと思うけど、もう、気持ちが離れてしまったんだ。さやかから。」
…うわーってなった。
さやかが旦那のこと理解しようとどんなに頑張っても、もともと持っていたプライドの高さは、払しょくできなかったんだな。
さやかはたぶんそんなつもりなかったんだろうけど、そういうところがにじみ出てしまっていた。
そのあとの展開は複雑だけどちょっと救われたのかな。
でもたぶん人生なんてこんなもん。
丸わかりのハッピーとアンハッピーはまれで、アンハッピーの後にちょっと笑顔になれるようないいことが起こったり、でもそのあとすぐしんどいことが起こったり。
なんかとにかく、一人の人間を追った、って感じの話でしばらく考え込んでしまいました。
ほかの3本も面白く、一気にすぐ読めました。