映画・小説の感想棚

映画、小説、アニメなどの感想。作品によって文章量はまちまち。土日正午を中心とした不定期更新。

少し変わった子あります

作者:森博嗣

後輩から勧められた、
不思議な料亭を通して
自分の生き方を語る
おっちゃんの話。

雰囲気もミステリアス感も、
夜は短し歩けよ乙女」の
森見さんっぽい。
でもそこまで
ガチャガチャしてなくて、
落ち着いた感じが
すごくいい。
私は、
口で物語進んでいくのは
好きじゃないんだけど、
料亭で女の子と
食事するとこが好きで、
次の子が楽しみになってた!!

大人ファンタジー

 

【再読・ネタばれ】

 

以下、いろいろ予想や妄想をしたいので、ラストの展開までネタバレしてます。

閲覧注意です。

 

大学教授の小山は、仕事仲間の荒木から女性と2人で食事ができる店のことを教えられる。

ただし女性と店の場所は毎回変わるという、なかなか要領を得ない話だった。

 

店を紹介されたものの小山はそのことをすっかり忘れていた。

しばらくして、荒木が行方不明になり、店のことを思い出した。

店に決まった場所はないため、訪ねる場合はまず事前に予約の電話を入れなければならない。

教えられた電話番号に電話をかけ、予約する。

約束の時間にタクシーが来て、その日営業している場所まで連れて行ってくれる。

ある時は地下で営業していた元料亭だったり、ある時は有名作家が住んでいた住宅だったり。

到着すると毎度同じ30代の女将に、食事する部屋まで案内される。

食事を一緒にする女性といってもキャバクラ的なコミュ力が高い子がいるわけではない。

基本的に地味な格好で、でも所作がめちゃくちゃきれいな女性ばかりで小山はそこに見とれ食事をする。

女性はだいたい20代~30代で、話を全くしない子もいればたくさん話す子もいる。

空間も静かで、孤高を愛する小山はその雰囲気ごと気に入った。

 

荒木の行方が分からないまま、小山は後輩の磯部にちらっとこの店の話をする。

磯部はエリートマンで、つい先日離婚したばかり。

 

「僕の人生は、だれか他人に評価してもらおう、という人生でした。ずっとそうだったと思います。でも、今は自分で評価できます。」

 

という価値観を持った人間。

 

小山はいつも通り、一人で店にいった後、帰りの電車に乗りながら考える。

 

(電車に揺られながら、窓ガラスに映った自分の姿を眺め、またあの店へ行こう、と考えた。しかし、次はもうあの小学校ではない。別の場所なのだ。そして、あの女性にも二度と会えない。私は一人微笑んだ。面白いものだなぁ、人生とは…、少なくとも生きているうちは、止まることはない。)

 

そしてラストの章は磯部目線で、例の店に行った話だった。

 

(私は、行方不明の友人のことを彼女[女将]に尋ねたかった。けれど、その彼の名前がすぐに思い出せない。)

 

磯部は食事を終え、女将に用意されたタクシーに乗りこむ。

 

(そうだ、思い出した。小山教授である。走り出した後も、何度か後ろを振り返った。もちろん、鉄塔が見たかったからだ。なぜ、小山はあの店に通ったのだろう?否、そんなことは、どうだっていいではないか。それよりも、私はどうしようか?まだ今日で二回目。もう一度くらいは、行ってみようか。別の子も見てみたい。いや…、やはり、もうやめておいたほうがいいだろう。そう、どことなく、危険な感じがする。全く根拠はないが、そう思える。思っただけで、背筋が寒くなるほどだ。)

 

…そして物語は磯部が帰っていく=店から離れていく描写で終わる。

結局あの店は何だったんだ?という不気味な終わり方。

しかも…、あれだけ楽しそうに店に通っていた小山は荒木同様行方不明になっているというまさかの展開。

つまり、荒木と小山が行方不明になった件とあの店と、何らかの関係性があるのはほぼ間違いない。

磯部は途中で止めれたけど、「また行きたい」という中毒性があるのは小山の様子からも明らかだった。

止めれなかった人たちは、女将に連れられてどこか労働のために飛ばされてるとか?

そもそも女将の上にも黒幕がいる可能性もある。

もしかしたら料理に使われていた肉は人肉で、その餌食になっているのかもしれない…。

人肉じゃなくても別の理由で殺されていたとしても、不思議ではない。

ついでに自宅も今後の営業先に使われてるかも。

小山も荒木も独身なので、必死になって彼らを探す人もいないのだろう。

磯部は小山の名前を忘れかけていたので、店側は彼らを世間から徐々に忘れさせるすべも持ってるのかもしれない。

 

と、まったく何もわからない終わり方、ではなくいろいろと想像が膨らませれる終わり方なので、よい読後感でした。

人肉展開だけは絶対嫌だけど。