美容師のえみは73歳の母を亡くし告別式に喪主の父を待っているが、父は昔から人騒がせな男で一向に現れる気配がない…!
恋愛、仕事、親の介護、健康…、38~50歳の独身女性を主人公とした6編の短編集。
時間のない新人編集者がタイトルつけたのか?というくらい安っぽいタイトルだけど、内容は独身女性の内面をしっかり描いた、深みのある短篇集だった。
帯も「疲れた心に必ず効く、読む特効薬。」と書かれてあって、下手かって思った。
なんかメンタル疲れた人が読む自己啓発本みたい…。
そういうジャンルと思って手に取った人に対してもかわいそうだし…。
私は今まで20代の独身女主人公の漫画やドラマを割と見ていて、人生に前向きになれるところが好きだった。
「凪のお暇」「逃げるは恥だが役に立つ」「これは経費で落ちません」など…。
恋愛、お金、仕事…、いろいろ悩みはあるけどそれでも自分の好きなように生きようと奮闘している主人公がキラキラして見えた。
しかしまぁ、38~50歳の独身女ともなればキラキラした部分も通り過ぎ、人生のあきらめみたいな、抱えたくないことを抱えながらも生きていかなくちゃねみたいな内容になっている。
もちろん作風の違いもあるんだろうけど、やっぱり人生って20代は自分らしく好きに生きてOKだけど、年を重ねるにつれ自由が利かなくなるんだな、と。
自分の健康のこと、親のこと、そして恋愛も結婚というお互いの人生がかかったものになってくる…。
この主人公たちは働くのが好きな人たちばかりだったから、お金には困っていなかったけど、現実だとお金の問題も絡んでくる。
そんな中でも彼女たちはやっぱり、自分らしく生きていこうとしている。
2つ目の「月夜のアボガド」に出てくる主人公ではないけど、エスターという女性の半生が1番印象に残っていて、1番素敵だった。
19歳の時に知人の紹介で知り合った男と結婚して2人の息子を授かった。
しかし旦那は酒癖が悪く暴力を振るうようになり、仕事もしないからエスターが仕事と子育てをしていた。
離婚をしたかったが母が宗教の関係で理解してもらえず、ただひたすら耐えた。
40歳の時、バーのカウンター席で隣に座っていた男が声をかけてきて、話すようになる。
バーに行くたびその男アンディはいて、口説いてくるようになってきた。
エスターはアンディの告白にこたえたい気持ちでいっぱいだったが、旦那と息子のことを思うとできなかった。
アンディとバーで話すだけの関係になって15年後、旦那が心不全で倒れ死亡。
エスター55歳、アンディ60歳。
アンディはエスターの人生を考慮して無理に告白の答えをせかすようなことはしなかった。
エスター60歳の時、息子2人がサプライズでアンディを連れてきて、「結婚しよう」とプロポーズされる。
それを受け結婚。
4年後、アンディは病気のため死亡。
「たった4年の結婚生活だったけど、あの4年間のために、彼も、私も、この人生を授かったような気がするの。」
つらい人生を送ってきたはずなのにそう思える感性がすごい素敵だな…。